その男、オンジ。
山で暮らしてる。
ハイジはいま居ない。
たまに訪ねるならいいけれど
いっしょに暮らすのはムリでしょう。
追い返したりはしませんが、
その男、オンジです。
楽しいのかどうか知りません。
幸せなのかどうかもわかりません。
ただ彼はアルプスの美しさを知っている。
夕焼けが山々を七色に染めて暮れていくのを知っている。
薪をくべ、空を仰ぎ、
風を読んで、雲の早さでたくさんのことを知ることができる。
若き日のオンジは街で暮らしてる。
スーツ着て地下鉄に乗ったりもする。
やがて乗り継ぎ、乗り継ぎ、乗り継いで
ひとりになる。
大した過去などありません。
少しの未来があるだけです。
ヒゲもないしスマートな、
その男、若き日のオンジです。